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第608話

肩にかけてくれたコートをハンガーにかけるべく手に取ると、大切そうに抱き締めた。 長岡のにおいがする。 良いにおいだ。 正宗さんと久し振りに会えた 元気そうで良かった 会えただけじゃない。 ホワイトデーのプレゼントを貰い、キスをした。 触れたんだ。 触れられたんだ。 いまだ鼓膜に残る低くて落ち着く声。 冷たくて大きな手。 全部、長岡だと分かるもの。 優しい恋人の思いに頬が緩む。 次、か 楽しみだな コートに顔を埋めると、小さく笑った。 より長岡が恋しくなってしまうだろうか。 でも、それの寂しささえ愛おしい。 長岡がくれる感情だから。 桜、早く咲かねぇかな したい事が沢山ある。 話したい事も沢山ある。 隣で沢山、沢山笑いたい。 コートをハンガーに引っ掛けても暫くそれを眺めていた。

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