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第609話
飴玉の詰まった瓶を手に取るのは4度目だ。
毎回なににしようか悩むが結局飴を選んでしまう。
贈る意味もそうだが、太陽光を浴びキラキラ輝く色とりどりの飴はとても綺麗で甘くて恋人みたいだと柄にもなくロマンチックな事を思うから。
三条は長い時間をかけて飴を食べきる筈だ。
その間、自分の事を考えてくれていると良いなと思いながらレジへと並ぶ。
「すみません、これください」
「はい。
プレゼント用ですか?」
ホワイトデーのお返しなので頷くと、女性店員は後ろの棚から1枚のメッセージカードを取り出した。
名刺程の大きさの紙に青いリボンのイラストが印刷されたそれを差し出し、にっこりと笑顔を向ける。
「包装いたしますので少々お待ちください。
無料でメッセージカードもお付け出来ますが、いかがでしょうか」
「あ、いえ…」
はた、と考えた。
遥登はどんな顔をするのだろうか。
そして、思い浮かぶのはふわふわとした笑顔。
これからやってくる季節の様にあたたかくておおらかな笑顔だ。
『正宗さん、ありがとうございます』
その笑顔に滅法弱い長岡は、じっとメッセージカードを見ながらもう1度頷く。
「やっぱり、付けてください」
「はい。
今書かれるならボールペンもお使いください」
包装と精算をしている間にチェッカーの隣のペンをどうぞと一言声をかけてから、女性定員は棚から紙袋を取り出したりリボンを引き抜いたり作業をはじめた。
「お借りします」
何を書こうか。
そんなの、1つしか思い浮かばない。
さらさらと書き込むと、やっぱり自宅で書けば良かったと思い始めた。
我ながら直球過ぎた。
どこかに置き忘れでもしたら恥ずかしい。
でも、たまには良いだろう。
ボールペンのノックを押し、ありがとうございましたと声をかけボールペンを返すと、包装も終わった様だ。
紙袋にリボンを付けられ、どこか誇らしげなそれを受け取るとさっきより重い気がした。
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