610 / 1502

第610話

文豪の様に言葉選びの才能があれば良いのだが。 でも、気持ちは伝わるだろう。 伝わってくれ。 言葉は伝える側が意図せずカタチを変えて伝わってしまう事もある。 日本語は難しい。 それに加え、“相手”の気持ちを推し量る事を美徳だと感じる日本人が多いのもその要因の1つだろう。 それが悪い事だとは思わないが、やはり言葉は素直に受けとりたい。 それが恋人や友人の様に自分にとって大切な人からなら尚更だ。 どんなカタチでも愛おしい筈だろ。 店から1歩出ると冷たい風が鼻の奥をツンとさせた。 暖冬だと言っても夜は冷える。 コートに片手を突っ込み暖をとりながら足早に自動車へと戻る。 たまには他のお菓子もって思うけど、つい飴にしちまうんだよな でも焼き菓子は弟が作ってるの食ってるって言ってるしな 兄弟仲が良いのは良い事だ。 弟を最後に見たのは3年の文化祭。 兄の事をよろしくお願いしますと頭を下げられた。 あの兄弟に反抗期なんてあるのだろうか。 やわらかな顔は兄によく似ていて穏やかそうだ。 運転席に乗り込むと、綺麗にリボンをかけて貰った紙袋と鞄を助手席に置きエンジンをかけた。 少し車をあたためてから帰ろう。 ついでに、なにか食べ物を買って晩飯は楽をしようと頭の中で最低限の買い物リストを作り出す。 もう一度紙袋を見ると、笑顔が重なった。 これで良いんだろうな 恋人は、きっとなにを贈っても喜んでくれる筈。 贈った物に込められた気持ちをきちんと汲んでくれる。 三条はそういう子だ。 プレゼントを贈る筈がまるで自分が貰っている様だ。 そんな気持ちにさせてくれる恋人に早く会いたいと願わずにはいられない。

ともだちにシェアしよう!