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第611話
勉強をしながら口の中で飴を転がす。
甘くてゆっくり溶けていくそれは、まるで恋人の様だ。
長岡も滅法甘くて優しくて溶かされていく。
腕の中に抱き留められ、大きな手が髪を梳いてくれる。
そうだ、とても良いにおいがして安心するんだ。
この2週間、長岡の部屋には行っていない。
本のにおいのする落ち着く空間。
あの部屋に長岡は1人でいるのか。
いつになったら会えるのだろう。
手に持ったシャーペンをノートの間に置くと、変わりにスマホに手を伸ばした。
ロックを解除し長岡と撮った写真を眺める。
沢山の写真。
ほんどは笑っているものだ。
笑って、寝て、長岡が欠伸をしているのもある。
それから、いやらしいものも。
空瓶に隠したメッセージカードも、どれも大切な物。
宝物だ。
言えないから疚しい関係なんじゃない。
大切だから言わないんだ。
飴玉が口の中で溶けていく。
家族を守りたいと言ってくれた優しい恋人が、どうか寂しくありませんようにと今は願うばかりだ。
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