611 / 1502

第611話

勉強をしながら口の中で飴を転がす。 甘くてゆっくり溶けていくそれは、まるで恋人の様だ。 長岡も滅法甘くて優しくて溶かされていく。 腕の中に抱き留められ、大きな手が髪を梳いてくれる。 そうだ、とても良いにおいがして安心するんだ。 この2週間、長岡の部屋には行っていない。 本のにおいのする落ち着く空間。 あの部屋に長岡は1人でいるのか。 いつになったら会えるのだろう。 手に持ったシャーペンをノートの間に置くと、変わりにスマホに手を伸ばした。 ロックを解除し長岡と撮った写真を眺める。 沢山の写真。 ほんどは笑っているものだ。 笑って、寝て、長岡が欠伸をしているのもある。 それから、いやらしいものも。 空瓶に隠したメッセージカードも、どれも大切な物。 宝物だ。 言えないから疚しい関係なんじゃない。 大切だから言わないんだ。 飴玉が口の中で溶けていく。 家族を守りたいと言ってくれた優しい恋人が、どうか寂しくありませんようにと今は願うばかりだ。

ともだちにシェアしよう!