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第619話
においが気になって換気の為に窓を開けるが、入り込んでくる空気は冷たい。
もう3月も終わるというのに。
木の芽風は、清々しいその名とは裏腹に自律神経を乱してくる。
桜前線の北上と共に不安定な気持ちを運んでくるなんて厄介だ。
でも、やっぱり風は気持ち良い。
外出の機会もめっきり減ってしまいあまり風にも当たっていないせいか冷たい風だとしても心地良い。
手、洗ってこよ
流石に気持ち良いもんじゃねぇし
ナニかがこびり付いているような気がする手をぐっと握ったまま、静かに洗面台に向かい静かに手を洗う。
この時間は綾登のお昼寝の時間だ。
良い夢を見ているかも知れないのに起こしてしまってはいけない。
どんな、夢を見てるんだろう。
楽しい夢だと良いな。
沢山遊んで、沢山食べて、沢山寝て、大きくなって欲しい。
沢山しあわせを感じて欲しい。
変わらぬ生活が続いていたら公園に行って遊んだり散歩をしたり出来たのに、今は満足にそれも出来ない。
その分、沢山良い事があると良いなと願うばかりだ。
勿論、三男だけではなく次男や両親、祖父母、友達、長岡も。
石鹸の泡を冷たい水で流し悴む指先に付いた水を撥ね飛ばすとまた静かに部屋へと戻る。
すっきりしたら今度は読み途中の本の内容が気になってきた。
長岡から借りた本も読み終わり積ん読を減らしているが、なぜもっと早く読まなかったのだろうと思う程面白い。
だけど、隣に長岡がいてくれた方がもっともっとわくわくする。
今はまだ会えないけど、会えた時に沢山話が出来るように沢山の事を吸収しておきたい。
部屋の空気は冷たいが、さっきよりにおいはマシになったようだ。
髪を揺らされながら暫くそうして空気を入れ換えていた。
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