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第621話

母親の心配は、子供達が自宅に引きこもり過ぎて気分が落ち込む事やストレスを溜めてしまうこと。 あんなに毎週出掛けていた筈がそれも止めた子供達。 末っ子の健康を気にかけてくれるのは嬉しいが、だからと言って兄達の心の健康も同じだけ大切だ。 優しくて人の言葉の悪意に敏感な息子達。 守りたいのは、兄弟3人みんな。 そんな気持ちを伝えてもきっと長男はにこにこした顔で、でも綾登に何かあったら俺も悲しいと言ってのける。 優しく育ってくれたのはとても嬉しい。 だけど、優しいだけじゃ自分が辛くなる。 こんなの悲しい。 だから、優登がゲームが欲しいと言った時は有り難かった。 弟に甘い長男ならそれを無下に断らないから。 母はそれを口に出して言う事はしなかったがとても感謝していた。 そして、ついでとばかりに牛乳と少しの買い物も 頼んだ。 いくらか出歩けば気分も変わるだろう。 これに関しても心配がない訳ではない。 だけど、夜なら少しは人の動きも落ち着くだろうと。 「うーう」 「もうすぐ帰ってくるよ。 お母さんと一緒に遊んで待ってようね」 「むー」 お気に入りのブランケットの上に寝転んで怒っているアピールをしている。 ぷくぷくの頬を膨らませて怒っても可愛いだけだ。 背中を優しく叩きながら、いっそもう寝かし付けてしまおうかと考えていると自動車の音が近くで止まった。 バタンッとドアが閉まる音と楽しそうな兄達の声。 「あ!」 「帰ってきたね。 お迎え行く?」 漸く顔を上げた綾登は玄関に迎えに行った。 「ただいまー」 「ただいま。 お、綾登、ただい…うお」 もう笑いが堪えきれない。 次男も長男の事が好きだが、三男も負けず劣らずすごい。 長男も弟達を同じだけ大切にしてくれているのは見ていれば分かる。 それにしても、父親の血が濃い。 どうせ、背中に突撃して抱っこしてもらおうつもりなのだろう。 「すぐに帰ってきたろ。 怒んなって」 「あーっぶっ!」 一所懸命気持ちを伝えようとする三男の話を聞きながら、兄達2人が帰ってきた。 案の定、抱っこしてもらいご機嫌そうな末っ子。 「ごめんって。 母さん、牛乳買ってきたよ。 あと頼まれてた豆腐と納豆」 「ありがとう。 あ、海苔頼むの忘れた」 「あぁ、それなら優登が教えてくれたから買ってきたよ」 抱かれてご機嫌な綾登は、長男のここで待っててなの声に素直に従い麦茶を飲み始める。 一足早く手洗いうがいを終えた次男は子供の様に早く早くと急かし始めた。 これは取り合いになりそうな予感しかない。 でも、長男はそれを嫌がらずいてくれる。 兄弟仲が良いのはほほえましい。 「兄ちゃん、早くっ」 「先にしてて良いって。 それより、風呂行ってこい。 麦茶も飲みたいし」 「今すぐ入ってくる! 麦茶は俺が注ぐから早く用意しとけよっ」 「じゃあ、麦茶は任せた」 「任せとけって」 入れ違いにリビングに顔を出した父親は不思議そうな顔をして長男に道を譲った。

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