622 / 1502

第622話

食卓に麦茶の入ったマグを置くと優登もすぐにリビングを出ていった。 また道を譲った父は漸く母の隣に座る事が出来ると思ったら綾登が陣取っている。 仕方なしに三男を挟んだ隣に腰をおろした。 「美月ちゃん、どうしたの?」 「ゲーム買ってきたから優登が早くしたいって急かしてるの。 でも、遥登に先にお風呂に入りなって言われて。 綾登も2人が帰ってきてご機嫌になったし、遥登は大変ね」 スパウトマグを使って美味しそうに麦茶を飲む三男の頭を撫でながら母は楽しそうに笑う。 随分と賑やかになった家が嬉しいのは父も同じだ。 次男が中学校に上りやっとゆっくりとした夫婦2人の時間がとれるようになるというタイミングで綾登を授かり、小さな王様を中心に家の中は賑やかさを増した。 それまでも息子達が遊んで楽しそうな声が漏れる家ではあったが、やはり幼児のパワーはすごい。 何事も全力投球で力をすべて使い果たすのではないかと思う位パワフルだ。 「綾登は自分に素直だな。 良い事だぞ」 「どー」 父親は綾登を膝の上にのせながら、然り気無く妻の隣を陣取ると他愛もない話をはじめた。 「あなたも自分に素直ね」 「そうかな?」 「綾登が怒らないなら良いけど、怒ったら譲ってね」 「いや、話し合いだね」 見上げる綾登の頬を揉みながら、なぁと声をかけるもぷぃっと顔を背けられてしまう。 やっぱり平和的に話し合いが1番だと思うよと更に付け加えたが、やっぱり綾登は顔を背向けるばかり。 しまいには母親の方が良いとそちらに行ってしまった。 「綾登、話し合いだよ」 「綾登の方が上手ね。 ね、綾登」 「へへー」 「あ、俺、邪魔?」 「いいや。 そんな事ないよ」 「いや、良いって。 親のいちゃ付いてんの隣で見るとかキツいし」 ゲーム機を片手に麦茶を飲みに戻ってきた長男は、優登が風呂から出てきたら教えてと声を掛けて今降りてきた階段へと戻っていった。

ともだちにシェアしよう!