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第630話
「俺も、あいしてます」
小さな耳に手を当てて、反対側は抱き締めるように胸に押し付け、愛してると伝えた。
流石に弟には恥ずかしくて聞かせられない。
だけど、それを抱っこされていると思ったのか弟はご機嫌だ。
漸く大人しくなった。
頬を指で擦りながらあやされるのは綾登も気持ち良いらしい。
『弟に聴かせて良いのかよ。
お兄ちゃん』
「耳塞いでますから」
『なんだ、惚気聴かせてんのかと思った。
じゃあ、また夜な。
くれぐれも気を付けてくれよ』
「はい。
正宗さんも。
じゃあ、また夜に」
真っ黒な画面に写るのはだらしなく頬を緩ませた顔。
確認の連絡は僅か数分で終わったが、時間的に長岡は昼飯を食べていないだろう。
只でさえ忙しいというのにだ。
自分を心配して連絡をくれた
申し訳ないと思う反面すごく嬉しい。
大切だからそうする。
当たり前の優しさがこんな時は酷く沁みてくるなんて狡い。
会えないんだから、あんまり沁みてくれるな。
「んーっ」
「ん、遊ぼうな」
「なにしようか。
ブロックか?」
こわくないと言えば嘘になる。
こんな小さな弟の目に、今の世界はどう見えるんだろう。
キラキラ輝いて見えるか。
マスクで半分隠れて見えるか。
誰かの悪意ばかりが見えるか。
だから、どうか、家の中だけでも沢山沢山笑っていて欲しい。
家族だけでなく守ってくれる人が沢山いるから、その愛情を一心に受けのびのびと大きくなってくれ。
なにもしてやれない兄からのせめてもの願いだ。
「うっ、あ!」
「うん。
お城作ろうな。
屋根は綾登が作るんだぞ」
「へへーっ」
きっとすぐに怪獣になって壊されるが綾登が楽しいなら何よりだ。
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