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第631話

葱を刻む次男は、こそっと母親の方を盗み見た。 昼寝から目覚めた綾登となにか話している。 ただただ楽しそうな末っ子と母は何を話しているのだろうか。 楽しい事だと良いなと願う。 お菓子も焼きたかったし、 優登は母と食事当番を代わった。 オーブンの中には明日のおやつの焼き菓子が焼かれており甘いにおいが部屋いっぱいに広がっている。 それで綾登はご機嫌なのだろうか。 なら、後で綾登も食べられる物を作らないと。 綾登が笑っていてくれれば、それが1番だ。 目下では、なめこと豆腐の味噌汁と豚肉の味噌漬け、里芋の煮っころがし、ほうれん草とえのきのおひたしが出来上がっていく。 それに作り置きの山菜の小鉢、祖父母の畑で育ったキャベツと新玉ねぎのサラダがあれば兄も食べ足りないということはないだろう。 俺も最近は食べても食べても腹が減るし沢山の量を作った。 こんな事しか出来ないけど、こんな時こそ心が貧しくなるのが1番良くないと思う。 心が貧しくなるとストレスも溜まる。 誰かを不意に傷付けてしまう。 アニメ映画でも言っていた。 お腹が空いてる事と1人でいる事は駄目だって。 美味しいご飯を家族で食べるのは大切だって意味だと思う。 頭で解ってはいても反抗期だし思春期だし、なんかそういうのを口に出すのは嫌。 難しい年頃なんだ。 手本の兄の様にいたいのに出来ない悔しいさとごめんは飲み込んで、出来る事を出来る範囲でする事に決めた。 だけど、やっぱり、素直に口に出せなくてごめん。 「優登、味見」 「やった! ……あち」 「大丈夫か。 気を付けろよ」 はふはふと煮っころがしを味見していると、綾登の笑い声が一際大きく響いた。 ご機嫌ならなによりだ。 母の声も穏やかで安心する。 優登にとって大切なのは家族と友達。 守りたいのは手の届く範囲の小さな世界。 どうだ?と見てくる兄の炊いた里芋は甘辛くてやわらかくて美味しい。 「んーま」 「美味いか。 良かった」

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