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第632話

兄はいつもと同じ優しそうな顔で微笑んでいる。 色々考える事がある筈なのにそれを微塵も感じさせない。 やっぱり兄ちゃんは大きい。 時々良いにおいをさせて帰ってくる兄は、ここのところずっと家にいる。 いつも同じ顔でにこにこと勉強して綾登と遊んで家事を手伝っている。 きっと会いたい人がいる筈なのに。 一言も愚痴を溢さない。 俺は、市内で感染者が確認され学校再開が1週間延長になってしまって本当はちょっと嫌だなって思った。 一樹と会って話したいし、他の友達とも普通に会いたい。 勉強したい。 体育したい。 くだらない話をしたい。 我が儘ばっかり思い浮かぶ。 誰かのせいで、なんて本当は思いたくないのに。 俺達、なんか悪い事でもしたかな。 してないつもりで、とんでもない事をしたのかな。 テレビは今日も誰かの悪意が港んでいる。 汚ない。 醜い。 聞きたくない。 誰かのせいにしちゃいけないって保育園で教えてもらったのに誰かのせいって悪口ばっかり。 大人はいつもは我慢してるんですって付け加えて酒を飲みにいってるのに。 俺達子供が我慢すれば良いのか。 そうすれば満足なのか。 なんで、なんで。 頭の中がぐちゃぐちゃしてくる。 これもホルモンバランスが原因かのかすら分からない。 こんな事考えたくないのに考えてしまう。 こんな事考えてしまう自分が嫌だ。

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