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第635話

「うー、んま」 「どうした」 足にしがみつくあたたかな弟は早くご飯が食べたいと手をロ元にやってアピールしてきた。 ぷくぷくの頬をより膨らませ、んーとロを尖らせる。 兄が可愛い可愛いと言うので最近のブームになったポーズだ。 確かに可愛いんだよな。 「ちょっと、イチャ付いてるとこ悪いけど綾登が腹減ったって」 「あぁ、綾登ごめんな。 早くご飯食べようか」 漸く靴を脱いだ父は少しばかり名残惜しそうな顔をしたが母は変わらずにこにこしている。 優登は、ほんの少しむっとした顔をした。 別に夫婦仲が良いのは良い事だと思う。 それに、このイチャイチャだって今にはじまった事でもない。 見慣れたものだ。 ただ、思春期の優登はなんとなくそういうのに反抗したくなる年頃なだけ。 自分でもめんどくさいと思うが、これもれっきとした成長過程だ。 むっとした顔をするのも色んな物を隠す為。 自分でもめんどくさいって思うけど、他にどうしようも出来ない。 「綾登は空気読めて良い子だな」 次男は末っ子を抱き上げ専用の椅子に座らせた。 早く来ないと綾登がグズるぞと洗面所へ声をかけると、待ってと声が届く。 待ってるから、しっかり洗えよ。 大切な事だって教えてくれたのは両親だ。 「綾登、おっきな声で父さん呼べ」 「んま、んー!」 「優登は父さんに厳しいな…」 んーまっんーまっと兄達に笑いかける末っ子と、楽しそうに笑う兄に挟まれ本当は優登も楽しい。 両親の事も好きだ。 言わないだけで、嫌いな筈がないだろ。

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