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第636話

夕食を食べ終え、綾登は寝た。 優登とゲームをして、漸く部屋へと戻ってきた三条は、長岡のコートを手にベッドに寝転んだ。 蛍光灯がやけに眩しい気がして、ごろんと背を向ける。 そうしてコートに顔を埋めた。 正宗さんのにおい、薄くなってきたな 時々こうして長岡を補充しているが、においはどんどん薄くなっていく。 部屋に溶けていると思えば悪くはないが、それでも寂しさは消えない。 長岡の部屋は、当たり前だが長岡のにおいでいっぱいでとても居心地が良かった。 あの部屋が恋しい。 長岡が恋しい。 1人になるとそんな思いが頭を満たす。 目を閉じ思い浮かべる恋人は優しく頬笑み此方を見ている綺麗な顔ばかり。 怒った顔なんて見た事がない。 正宗さんって怒るのか…? あ、あの日…馬鹿って言われたな 俺が悪いんだけど 行きが降りしきる中、長岡の部屋の前でぼーっとしていた時のあの顔はあの日以来見ていない。 怒った顔でもとても格好良かったのを覚えている。 なんであんなに怒ったのかよく分からない。 だけど、あの時から長岡は優しかった。 感情のコントロールが上手い。 教職をしていると色んな生徒、保護者、同僚がいるからそれは利点だろう。 だから、セックスで感情を剥き出してくれるのが嬉しい。 もっと近付きたい。 早く近付きたい。 コートに顔を埋めたまま、そんな事を考えていた。

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