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第638話

翌日、綾登が昼寝中に部屋に戻った三条は換気に窓を開け、買ったばかりのファブリックミストをカーテンに一吹き吹き掛けた。 ふわっと辺りに広がるラグジュアリーなにおい。 『遥登』 一気にあの部屋が蘇る。 風にのって部屋へと広がっていった。 確かに長岡の部屋のにおいに似ている。 長岡のにおいを引くとこんなにおいなのか。 ベランダに干した洗濯物から同じシリーズの洗濯洗剤のにおいが入ってきて、室内の本のインクや紙のにおいと混ざって部屋いっぱいに広がる。 そんな中で長岡と過ごす休日はかけがえのない日々だ。 そんな日々に一瞬で戻れる。 だけど、同時に長岡がより一層恋しくなる。 くんくんと堪能していると向いの部屋から弟がやって来た。 「兄ちゃん? なんか良いにおいすんだけど」 「あぁ、ファブリックミストのにおい。 優登も使うか?」 「良いの?」 「良いよ。 ベッドに吹き掛けたら貸すから待ってな」 シュッシュっとベッドに吹き掛けていると、今度はなんだかいやらしい気分になってくる様だ。 これは完全に鈴を鳴らされた犬だ。 あと、最近抜いていないから。 なんだかやばそうな気もするが、寝る頃にはにおいも薄くなっているだろう。 弟の前で勃起なんてしていられない。 そよそよと入り込んでくる春の風が足を冷たくしていく。

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