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第643話
先にメッセージを送信すると2コールもせずに長岡と繋がった。
あっちとこっちを繋げてくれる小さな器械が有り難い。
『こんばんは』
「こんばんは。
夜分すみません」
『起きてたし気にすんなって。
遥登の声聴けて嬉しいよ』
やっぱり、この声が好きだ。
低くて甘くて落ち着く声に胸がきゅぅっとする。
好きで好きで大好きでたまらない声。
ふにゃぁとだらしない顔になっていくのが自分でも分かる。
『夜更かししてっと身長伸びねぇぞ』
「正宗さんの身長超しても良いんですか?」
『生意気』
まるで楽しそうに笑う姿が目の前にあるみたいだ。
長岡は付き合ってからとても穏やかに笑うようになった。
いや、それまでは作り笑いしか見た事がなかったと言った方が正しい。
教師の仮面を何重にも貼り付け笑顔も作ったもの。
それでも、綺麗な顔立ちのお陰で女子生徒から人気があった。
そんな先生の本当の笑顔を見られるのは光栄な事だ。
早くまた隣で見たい。
その笑顔に触れたい。
『なぁ、やっぱテレビ通話にしても良いか。
遥登の顔見てぇな』
はいと答えると、通話が切れすぐにテレビ電話が繋がった。
長岡はいつもの定位置に座っていて、 少し髪が伸びただろうか。
会えない間の変化を探してしまう。
それにしても、相変わらず格好良い。
『元気そうだな』
「正宗さんも」
顔を見て安堵する。
変わっていない事が嬉しい。
自分が見られない間に変わっていたら悔しいだろ。
そう思うのは三条だけじゃない。
長岡もそうだった。
なんだか擽ったい。
恋人っぽいな、なんて思うが、実際に恋人なんだ。
はにかむ三条を見る顔は仕事中とは違い、漸く穏やかなそれになった。
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