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第663話

一足早く画面の前に戻ってきていた長岡はお茶を飲みながら待っていた。 三条は部屋から出て階下の洗面台へ行ったのだから時間がかかって当たり前。 それに、こんなご時世、丁寧に手を洗うのは良い事だ。 ただ、三条の部屋の壁を撮す画面を見ているとドアの開く音が聴こえた。 『お待たせしました』 「おかえり」 戻ってきた三条は長岡のコートを手にベッドに座った。 先程より幾分か顔色が良くなっている様にも見える。 少しは安心しても大丈夫そうだ。 「俺のにおい、興奮したか?」 『あ………はい』 「それ、遥登のにおい染み付けとけ。 また交換しような」 『はいっ』 三条は恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑い頷く。 恋人が恋しかったのはお互い様。 長岡も三条から借りたパーカーをベッドに持ち込んで眠っていた。 すっかりにおいも薄れ物足りなくなってきた頃だったので、長岡にとってもそちらの方が嬉しい。 『あの、…コートと寝たので少し皺になってしまって……』 「気にすんな。 んなの、クリーニング出すし大丈夫だ」 『クリーニング出すんですか…?』 「…やめた。 そのまま貸しておく」 『え…』 「遥登にそのまま貸すから会えるようになったら手渡してくれ」 くりくりした目が嬉しそうに三日月を描き、しっかりと頷いた。 犬みたいに愛くるしく愛おしい顔。 「約束な」 『はいっ』 とびきりの花が咲くと、長岡はとてもしあわせそうな顔をした。

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