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第664話

会えなくても恋人に対する気持ちは何も変わらない。 三条を愛おしみ、恋しく思い、心配し、健康を願う。 こんな時だから、より強く願う。 『俺のにおいになっちゃいますね』 「そうしてくれよ。 そっちの方が嬉しい」 『へへっ』 まだまだ幼い笑顔がふわふわと笑う。 その笑顔が明日からの力に変わる。 また怒濤の1週間がはじまるが、大丈夫だ。 この子に情けない姿は見せたくない。 そんな背中に追い付かないで欲しい。 真っ直ぐに伸びた背中を見て欲しい。 自分の我が儘だが、目標だと言ってくれた三条に恥じたくないんだ。 それが背中を押してくれる。 勿論、卒業式にA組と撮ったあの写真もだ。 『あ、汚れてはいないので、そこだけは安心してください。 シミも着けてない筈です』 「汚しても構わねぇよ。 つか、遥登の体液ならそれで抜けるしな」 机に肘を着いて、そこに顎をのせる。 楽しそうに話す三条を見ていると心が穏やかになっていくのが自分でも分かる。 肩から必要のない力が抜けて軽くなった。 あんなに三条を心配していた筈なのに、今はつられて笑っている。 本当に、三条は凄い子だ。 『っ、また、そういう事を言ってからかう…』 「本当の事だし。 遥登が俺のコートで射精したとかくっそ抜ける。 あー、暫くはこれで抜くか」 『お、俺も、正宗さんの……』 「俺の?」 『正宗さんの、』 「うん?」 『お、おな……にー、で…抜きます』 顔だけじゃなく、耳も首も真っ赤にしてぽつりと溢した言葉の愛らしさには、不安なんて勝てない。 「く……はは、はっ……悪い笑うつもりはねぇんだけど可愛い……」 『笑わなくても良いじゃないですか……』 「悪い悪い。 可愛くて、つい」 世界がどんなに暗くても大切な遥登が笑っていてくれればそれが光だ。 明るく色鮮やかに照らしてくれる。 道を間違える事はない。 そして、自分も同じ様に遥登を支えたい。 自分より大切な存在だから。 その為に、今は離れた場所から遥登と遥登の家族を守る。 「遥登、愛してる」 『っ! 俺も、愛してます』 世界で1番愛してるからな。

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