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第665話
暫くそうして話していると画面の端に映る時刻が目に入った。
自慰をしていたせいもあり中々いい時間だ。
三条の生活リズムを大きく崩してしまうのは避けたい。
「ほら、良い子は寝る時間だろ。
眠くねぇのか。
俺の身長追い越せねぇぞ」
『そんな、子供じゃないです…』
三条は急に悄気げ、まるで耳も尻尾も垂れた犬だ。
これはこれで可愛いが、恋人に滅法甘い長岡は更に甘やかす。
「じゃあ、もう少し俺に付き合ってくれるか」
『はい…っ』
きゅっと上がった口端がゆるゆると緩み嬉しそうに頷いた。
甘やかす半分、この顔が見たいが半分が本音だ。
だってすげぇ可愛いだろ。
尻尾振って喜ぶ犬みてぇに喜ぶんだぞ。
「でも、体力使ったんだから眠くなったらすぐに言え。
部屋でもそうしてたろ」
『はい。
ありがとうございます』
話さなくても良い様な内容の話をする贅沢を2人で分け合う。
マンションによく散歩に来るあの地域猫の話や、弟の小さな成長、美味しかったご飯の話。
その1つひとつに三条は頷き、笑い、面白い返答を返してくれる。
耳に馴染んだ声がとても心地よくて、見慣れた笑顔がとても優しくて、今もウイルスが猛威を振るっているのが嘘の様だ。
2人はそんな事すっかり忘れて、沢山の言葉を交わした。
言葉通り、2人の世界で。
「遥登、俺の事好きか?」
『突然どうしたんですか』
「んー、遥登の口から聴きてぇなって思ってな。
かわいーく言ってくれるか」
『可愛くはないですけど、あの…好きです』
随分と男らしくなった恋人は優しくそう言ってくれた。
声も出会った頃より低くなり背丈も伸び、すっかり男になった。
だけど、自分にとってはまだまだ子供で大切な愛おしい人。
そんな三条から発せられる言葉は言霊が宿り、自分の力になる。
鼓膜を震わせ、体内に入り込み、身体中を巡って身体の奥の1番やわらい所にそっと寄り添ってくれる。
自分を愛する事、誰かに優しくする事、真っ直ぐに見詰めるその目の色。
何より大切なものだ。
俺の、最愛。
『正宗さん、大好きです』
「ん。
俺も遥登の事、すげぇ好き。
愛してる」
いつしか時計はまた1周したが、それでも会話を止めなかった。
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