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第670話
しあわせそうな顔をしてケーキを食べていた兄はすぐにぺろりと食べきってしまった。
「おかわりして良い…?」
「勿論!
沢山食って。
そしたら明日も作れる」
他の5人家族─1人は幼児だが─のホールケーキの消費の速度は分からないが、家は早い。
なにせ、兄がいる。
まだお菓子作りで失敗する事が多かった頃、あまり上手く膨らんでくれなかった5号のスポンジケーキを兄は美味しいよと1人で食べ切ってくれた。
多分、4人分位の量をあっという間にだ。
満足いく膨らみになるまでサイズを減らし甘さを加減し兄に食べて貰う事で感覚を覚えてきた。
兄には沢山のありがとうがある。
きっと、今もこうしてお菓子作りを続けているのはあの日の兄の顔が本当に美味しいと言っていたからだ。
いつも背中を押してくれる兄。
優しく見守っていてくれる両親。
大怪獣だけど、可愛い弟。
俺は家族に恵まれている。
「優登の作るの本当に美味いよ。
甘さが丁度良くて丸ごと食えるよな」
「んーま!」
「なぁー」
綾登と笑いながら嬉しい事を言ってくれる。
これだから、お菓子作りはやめられない。
皿を持ってそそくさと台所へと行ってしまった。
6等分に切り、兄と自分、父と母にワンカットずつ、残りが2カット。
両親は和室で食べている。
こんな時だから話す事が沢山あるんだろうな。
全て兄が食べても構わない。
「綾登にも早く食って欲しいな」
「へへっ、へー」
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