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第673話
「にーちゃんっ」
「ゔっ」
ドンッと衝撃と共に寝転がった身体の上に乗っかってきたのは綾登。
まだ1歳にもなっていない綾登が話せる訳がない。
真犯人は優登だ。
「優登、綾登」
顔だけ振り返ると、悪びれた様子もなく楽しそうに笑っている2人がいた。
「へへっ」
「うー!うー!」
綾登の脇に手を差し入れ持ち上げた弟を兄の背中に乗せたのだ。
変な声は出てしまったが、言うほど重くはない。
線が細くとも三条も男だ。
10キロ15キロ位は軽々持てる。
衝撃に驚いて口から変なの声が押しでただけで。
転ばない様に押さえている優登に甘え軽く振り返るだけでいるが、綾登は特にご機嫌だ。
母親はそんな兄弟を見て笑っている。
家族が笑っててくれれば、ある程度の事はへっちゃらだ。
自分だって、家族を守りたい。
長岡が守ってくれている家族を。
「綾登あったかいな」
大好きな兄の背中にぴったりと抱き付く幼児の体温は、子供体温の三条よりあたたかく気持ちが良い。
「うー、あー」
「そうだ。
優登、牛乳寒天食いたい。
作れる?」
「余裕!」
「やった。
楽しみにしてる」
みかんの缶詰めと一緒に食べるのが三条の家での定番。
牛乳寒天の甘さは控え目でほのかに甘く、それが缶詰めのみかんの爽やかな酸味と共に口いっぱいに広がるのを思い出しふにゃりと表情を緩めた。
それなら、今在庫の少ないバターや小麦粉を使わず作れるし綾登とほぼ同じ物が食べられる。
「んまー?」
「そう。
美味いやつ。
優登の作るお菓子はなんでも美味いけどな」
楽しみだ!と笑う綾登は背中でふんっふんっと身体を揺らした。
潰れそうだと母が声をかけても止めやしない。
「きゃぁぁ!」
「やべ、ほんとに食ったの出るかも…」
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