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第675話

ふと、三条の笑顔が頭を過った。 あの子は、栄養だ。 どんな栄養剤や点滴より回復力があって力になる。 そんな恋人の顔が見たくて僅かな時間でも通話をしてしまう。 一言、声を聴くだけでも良い。 そんな我が儘だ。 実家暮らしの三条には幼児の居る家庭の生活リズムがあり、あまり長く通話するのは気が引けてしまうのでアプリを使ったメッセージのやり取りの方が中心になってしまうが、それでも十分に力になっている。 でも、遥登が足んねぇんだよな こう抱き締めた時に腕の中にすっぽり嵌まる感じが他にねぇ… ガリガリで骨っぽくて、良いにおいがして子供体温。 そして、抱き締めると学生時代より低くなった声が嬉しそうに名前を呼んでくれる。 あれは他では絶対に真似出来るものではない。 だからこそ、今こんなにも恋しいんだ。 「美味いですね。 もう1つどうぞ」 「ありがとうございます。 僕も甘いのあるんですよ。 柏崎先生もどうぞ」 机の引き出しから取り出したのは小さな頃から見慣れたパッケージのキャラメル。 それが柏崎の手の上にコロンッと転がった。 亀田から貰った優しい気持ちと味が、赴任先でも広がってくれれば嬉しい。 懐かしいですねと笑う柏崎にもきっとその思いは伝わるだろう。

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