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第676話

緊急事態宣言が全国に発令された。 文字だけで、ただ事ではないと分かる。 なんで、こうなった。 どうして、こうなった。 分からない。 分からないが、これが現実だ。 「兄ちゃん、なんかお菓子作る。 なに食いたい?」 「うーん。 そうだな。 チーズケーキとかチョコレートケーキとかちょっと重いやつ食いてぇな。 あ、ポムポムも良いな」 「任せとけ!」 優登は市外から1週間遅れて学校が再開され漸く勉強が出来るようになったというのに、それも10日もせずそんな宣言を受けた。 だが落ち込んでいるかと思いきや、自分だけ学校だった優登は仲間外れから外れ、みんな揃っての休みにお菓子を作ると意気込んでいる。 学校は楽しいが、自分以外の兄弟が自宅にいるのに…というのは確かにつまらないだろう。 買い足す材料を調べにいく後ろ姿に付いていこうとする小さな身体を抱き上げ、連れていった。 「綾登、楽しみだなぁ」 「だっ!」 「あ、ここにクリームパンがある。 食べちゃうぞ」 「きゃぁぁ!」 背中を仰け反らせて喜ぶ三男を落とさない様に抱き締めながら、一緒に笑う。 楽しい事がないなら、作れば良い。 どんなに小さくても弟達が笑ってくれるなら、それは楽しい事だ。 嬉しい事だ。 「うーぅ」 「うん?」 小さな手を伸ばしてぺちっと頬に触れた。 あたたかくてやわらかくて、にこにこと笑った顔がよく似合う弟。 これもまた確かな現実だ。 「こっちも美味しそうだなぁ。 食べちゃうぞー」 「きゃぁぁ!」

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