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第688話

1年前産まれた幼い息子はスヤスヤと気 持ち良さそうに隣で眠っている。 大好きな兄達から貰ったブランケットを腹にかけ、誕生日プレゼントの黒猫のぬいぐるみをしっかりと握り締め夢の中。 兄達からの愛情をいっぱいに貰いこの1年でこんなに大きくなった。 あんなに痛かった筈の痛みは思い出せない。 綾登も、優登も、 遥登の時もそうだ。 痛み以上の事を沢山貰って、そんな引き出しはなくなったんだろう。 細い髪を撫でていると、 末息子の奥から声が聞こえてきた。 「美月ちゃん、ありがとう」 「え? どうしたの」 「綾登を産んでくれてありがとう。 この1年、あっという間だったね」 妻の手にそれを重ね、優しく微笑む夫はいつもそうだった。 笑顔でありがとうと感謝の言葉を口にしてくれる。 いつも自分を、家族を気にかけていてくれる。 家族になにかあると自分の事以上に悲しみ、傷付き、喜び、そして笑ってくれる。 「こんな時じゃなきゃ、もっと沢山色んな思い出残してあげたいんだけど上手くいかないね」 「大丈夫。 綾登も毎日沢山笑ってる。 それに、遥登と優登といたらご機嫌よ」 「優登そっくりだな」 「貴方にそっくり」 「え? 俺ってあんな感じなの?」 「うん。 そっくり」 綾登を起こさないように小さく笑うと美月ちゃんの方がそっくりだと笑顔が返ってきた。 沢山のしあわせをくれたこの人と過ごした20年は本当にしあわせで、愛おしい記憶。 そして、それがこれからも続いていくのが嬉しい。 「綾登、早く1人で寝れるようになってくれよ。 美月ちゃんの隣は俺の特等席なんだからな」 「そんな事言ってると本当にあっという間に大きくなるよ」 「楽しいだろうね」 その頃、遥登は夢を叶えているだろうか。 優登は、何をしているのだろうか。 綾登は、まだほうれん草が苦手だろうか。 色んな未来を思い描くが、1番の願いは息子達が笑っていてくれますように。 親の願いでそれ以上のものはない。

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