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第692話
「そういえば、声少し低くなってねぇか?」
『あ…やっぱりそう思いますか。
もう落ち着いたと思ったんですけど、いつもとなんか違いますよね』
背丈が高いので管が長くなり声が低くなるのは分かっていたが、随分と良い声になったものだ。
三条に似合った落ち着きのある声。
芯があり耳馴染みも良い。
だが、ここから更に大人の色を含むのが楽しみだ。
まだ幼さの残る声も良かった。
あの声で喘がれるのはたまらなく興奮した。
もうあの声が聴けないのは勿体ないが、当時のハメ撮りが残っている。
削除する前に付き合ってそのままおかずに使ったりしている物で三条には秘密。
『正宗さんみたいに良い声になりますかね』
「良い声って…。
低くいだけだろ」
『そんな事ないですよ。
先生が朗読してくれるの楽しみにしてたんですよ』
「へぇ、そりゃ初耳だな」
2人の懐かしい記憶が蘇る。
中庭に面した窓を開けていると緑の風が入り込んでくる教室。
さわさわと葉の触れ合う音を聞きながら教科書を読みつつ、机の間を縫っていく。
読めない漢字にルビをふる頭。
机に肘をつきぼーっと眺める顔。
眠そうに船を漕ぐその肩に触れ起こす。
きゅっと内履きのスニーカーが音をたてても歩みを止めない。
そうして教卓に戻ってくると、あの目が自分を見る。
においも、温度も、湿度さえ思い出せる色鮮やかな青春の日々。
『秘密にしてましたから。
言ったら、意識してしまうでしょ。
隠せる自信がなくなってしまいます』
それでも、隠し通し卒業した。
一先ずは守れたと思って良いだろう。
手から離れた三条はあの頃よりずっと大人びた。
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