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第693話
「じゃあ、今度なんか朗読してやろうか」
『本当ですかっ。
あ、でも…』
「ん?」
嬉しそうな声から一転、言葉を濁した。
電話口に小首を傾げても意味はないのだが、つい傾げてしまう。
一体どうしたのだろうか。
「どうかしたのか?」
『折角付き合ってるんですから…あの、沢山話をして、声を聴きたいなぁって……思いました』
恥ずかしそうな声。
恥じらった喋り方。
恋人らしい言葉。
長岡は破顔しつつ頷いた。
「あぁ、そうしよう。
恋人同士なんだから、そっちの方が良いな」
三条が与えてくれるしあわせは、すごく特別なものだ。
だが、誰の足元にも転がっているようなありふれたものでもある。
それをしあわせだと特別だと認知し大切に出来るかは個人次第。
だから三条はしあわせそうに見えるんだ。
小さな事でも幸福だと抱き締める。
愛してる三条遥登はそういう人間だ。
そういう所も尊敬している。
教師なんて仕事をしていると時々考える。
人様に何かを教えられる程、人間が出来てない癖になと。
三条の方がずっとその職に合っている。
だから、早く追い付け。
追い抜け。
楽しみにしてるから。
こんな世情に負けてなんてやるな。
絶対に負けんな。
転びそうになったら引っ張ってやるから。
きっとふわふわ笑っているであろう三条を想像し胸を焦がす。
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