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第701話

世間も暇を持て余している昼下がり、三条は長岡とビデオ通話をしていた。 アプリのお陰でこんな簡単に恋人の綺麗な顔を見る事が出来るのだから、アプリ様々だ。 しかも無料なんだから有り難い。 昨日も今日も良い日だ。 ベッドに腰掛け、換気に開けた窓から外の空気を浴びながら太陽の光も身体にうける。 「弟に追い出されたんです」 『そりゃ寂しいな』 「はい…。 お菓子作ってくれてるのはにおいでわかりますけど、寂しいです」 明日の事が要因だと分かっていても寂しい。 いつもはあんなに兄ちゃん兄ちゃんとくっ付いてくるのに。 長男も弟達に負けずブラコンの気がある。 同時に、大切に思い個人としても尊重する。 そのせいか、寂しい構ってとは言いにくい。 やりたい事があるならそちらを優先して欲しいが、やっぱり少し寂しい。 こんな世情で心が弱ってしまったのだろうか。 『遥登、そのまま横になってくれるか。 ベッドだろ?』 「はい。 こうですか?」 ベッドの上にごろんと寝転がると、カメラの向こうで長岡も寝転んだ。 まるで、長岡の部屋のベッドの上で自堕落に過ごしている時のように。 三条の目がキラキラと輝くのが、長岡にも分かった。 『一緒に横になってるみたいで良いな』 「っ! はいっ」 『久し振りだ。 やっぱこの角度の遥登も可愛い』 尻尾がぶんぶんと揺れ寂しさは消えていく。 長岡の事と弟の事は違うが、長岡の優しさが寂しい溝を埋めてくれた。 優しさ、愛情、沢山のあたたかな感情は、このベッドの様にやわらかく身体を包んでくれる。 今は恋人に甘えたい。 弟の代わりではなく、長岡の人肌が恋しいから。 『膨れた顔も可愛いかったけどな』 「そんな膨れるほど子供じゃないです」 『未成年だろ』 「…未成年でいられるのもたった20年だけですよ」 『そうだな。 そんな時に沢山一緒に居れて嬉しいよ』 やわらかく綻ぶ顔の美しさをしっかりと目に焼き付ける。 やっぱり、長岡の隣は生きていると感じる。 とてもあたたかくて心地良くて、目を閉じたら溶けてしまいそうだ。

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