703 / 1502

第703話

昼飯を食べまたすぐに追い出され、晩飯も同じ。 甘いにおいの残るリビングから帰ってくるとその都度悄気ている三条を長岡は楽しそうに甘やかす。 まるで猫の顎を撫でる様に優しく愛おしくするものだから三条はすぐに元気を取り戻した。 三条は読み途中の本を読み終わり視線を手元から長岡へ移した。 カーテンをひいたせいかさっきより蛍光灯の光を存分に浴びた長岡の髪が綺麗な色に輝いている。 「そういえば、髪染めましたか? 光の具合ですかね。 赤っぽく見えます」 『分かるか? いつもの色だけど放置し過ぎたのか少し赤いよな』 「でも、似合います。 正宗さんに似合った綺麗な色です」 『お世辞ばっか上手くなって。 遥登も髪伸びたな』 「中々切りに行けませんから。 セルフカットの動画観ながら頑張って切ってみます」 『俺も切らねぇと。 前髪邪魔でよ』 現役美容師達がその技術を惜しみ無くネットにアップしている。 美容室に行けず困っているだろうと。 お金をかけ学び試験を受けたのに、なんて有り難い事なんだろう。 「もし失敗して短くなっても格好良いんでしょうね」 『失敗した時の話かよ。 まぁ、仕事ん時はセットしてるから大丈夫だろ』 「正宗さん、なんでもそつなくこなすイメージですから。 ギャップが良いなって」 新しく発刊した本は読んだかなんて今話さなくても良い事だって話せるのがとても嬉しい。 勿論弟達は可愛いが、恋人は別格だ。 三条はずっとにこにこしながら話していた。 長岡もソファを背れにだらりとしていて、いつもを錯覚する。 そんな見慣れた風景が自宅の部屋からも見られるんだから、 現代に生まれて良かった。 いつかにおいまで届けば、もっと楽しくなるだろうな。 飯テロされたら困るけど。

ともだちにシェアしよう!