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第708話

翌朝、1階へ降りていくとこっち来てと弟に背中を押された。 歯磨きと洗顔だけさせてくれと言うと洗面所まで着いてくる。 ま、何が原因か知っているんだけどな。 案の定リビングに入ると椅子に座る様に促され、屈託なく笑う弟がケーキを手に祝ってくれた。 「兄ちゃん、誕生日おめでとう。 これ、俺からのプレゼント」 どんどん机の上に並べられる甘味に三条はにこにこと笑う。 「ありがとう。 美味そ。 本当に食って良いのか?」 「食って食って!」 ザッハトルテに、苺のロールケーキ、グレープフルーツの果肉の入ったゼリー、チョコレートクリームの小さな生ケーキには兄ちゃん20歳おめでとうと書いてあるクッキーがのっている。 昨日は寂しかったが今はとても嬉しい。 「あ、でも先に写真撮らして。 食ったら消えちゃうの勿体ねぇ」 嬉し過ぎて何枚もスマホで写真を撮った。 映えなんてどうでも良いが、弟の力作をより良い形で残したいと色んな角度から撮る。 数枚には次男が写り込み良い写真になった。 また、いつでも今日に戻れる。 見返す度に今日を思い出せるのが嬉しい。 下がる事を知らない口角は今日もきゅっと上がったままだ。 「いただきます」 手を合わせると優登は嬉しそうに頷いた。 こんな良い顔まで見られるんだから誕生日様々だ。 早速ケーキにフォークを突き刺し口いっぱいに頬張る。 なんて美味いんだ。 ほのかに苦いビターチョコレートと杏ジャムの甘酸っぱさが口の中をしあわせにしてくれる。 弟の思いが目一杯詰まったケーキはとびきりに美味しい。 その顔を見れば味の感想なんて聞かなくても良いとさえ思うと、優登は兄にそっくりの顔で笑った。 「やっぱり優登の作るケーキが1番美味しいな。 優登も一緒に食おう。 な」 優登がこっそり用意されていたフォークを取り出し悪戯っぽく笑うと2人でそれを突き刺した。

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