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第709話

次男は2口、3口と食べていったが、やっぱり兄が食べているのを見たいのかいつしか手の動きが ゆっくりになっていった。 正反対に食べる手が止まらない長男は、その細い身体のどこに入るのかにこにこしながらフォークを口に運んでいる。 「うー」 母親に抱かれた綾登やってくると、カシャカシャと音をたててタッパーを渡してくれた。 「くれるのか? 何が入ってんだ」 カパッと小気味良い音と共に蓋を開けて中を覗いた。 タッパーに入っていたのはクッキー。 猫の型付きをしてあるそれはケーキの上にのせたものの残りだろうか。 振られたせいか耳が欠けたりしているのもあるがいくつかは可愛らしい形をなんとか保っている。 三条はそのクッキーに小さな指の跡が一緒に焼かれている事に気が付いた。 「綾登。 もしかして、これ綾登が型付きしてくれたのか?」 「ぶー」 「優登が一緒にしようって言ってくれたんだよね」 「綾登が俺に型押し付けてきて大変だったけど、本人は楽しそうにするから起こるに怒れねぇの。 な、綾登」 小麦粉もバターも品薄だと言うのにこんなに作ってくれた弟2人。 果物だってこんな時にわざわざ買いに出掛けてくれたんだ。 しあわせ過ぎて言葉にならない。 此方もすぐに齧り付いた。 優登の作るクッキーの味がする。 だけど、いつもよりもっともっと美味しい。 「すっげー美味い! 綾登、ありがとう」 「良かった。 綾登、美味いって」 「ん、まー」 「今日は、遥登の日だよ。 綾登もお誕生日にケーキ食べたでしょ。 それとおんなじ」 「んっ、んっ!」 身体を揺すって嬉しい事をアピールする末っ子の頭を撫でると、えへへぇと楽しそうな声がリビングに広がった。

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