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第710話

綾登には苺をあげながらぺろりとワンホール食べきると紅茶のおかわりに席を立つ。 それを制したのは次男ではなく父親。 母親の分の飲み物のおかわりもするのか両手にマグカップを持ち、それも貸しなと目尻の皺を深くした。 笑い皺のよく似合う父。 「両手塞がってるだろ。 良いよ。 自分で出来る」 「遠慮するなよ。 おかわりはポットに入れて持って来るから、優登と食べてな」 「じゃあ…お願いしようかな」 椅子にケツを着くと父は頷いて台所へと消えていった。 誕生日という事を差し引いても父親は優しい。 ついでだからと三条が少しでも気にしなくて良いように言葉を選んでくれる。 そんな風に自分も優しくありたい。 優登と話をしながらケーキを食べ続け、紅茶の良いにおいがしてくるとすぐに父は盆にのせられたポットとマグを持ってきてくれた。 「ありがとう」 戻って来るまでの数分で更に食べ進められたケーキを見て父親はよく食べるなと感心している。 「父さんだって食うだろ」 「父さんより食べるだろ。 やっぱり若いと違うな。 気持ち良い位食べる」 小さい頃からよく食べる家庭で育ったせいか、自分がよく食べているとは思ってもいなかった。 勿論、世間一般の食事量でも足りるは足りる。 腹いっぱいと言うには量が必要なだけだ。 みんなそういうものだと思っていた。 満腹まで食べると腹がぽっこりと膨らむからみんなそこまで食べないと信じていた頃がある。 きっと綾登も通る道だろう。 腹がぽっこりと出るのは少数派だ。 「このケーキ美味いしいくらでも食えるんだよ」 「ふふんっ」 「兄弟仲が良くて何よりだよ。 ま、夫婦仲も良いけどね」 それに関しては父親の血が濃いのだろう。 母親も父親の事をきちんと好きだと分かる顔をしているので2人の血のどちらが濃くても、兄弟仲は良いという事か。 よくよく考えてみると、自分の周りには愛情を溢れさせる人が多い。 両親しかり、弟達しかり、吉田も長岡も。 かくいう自分も少しブラコンの気があるし。 類は友を呼ぶという言葉が頭に浮かんだ。

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