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第718話

小さな手が草を掴んで引っ張る。 名前を知らない植物は、しっかりと根を張り幼い子供の力では抜けない。 力強くて逞しいそれが抜けないと分かると今度は祖父母から貰った砂場セットの如雨露を手に伸ばした。 三男はすべてが興味の対象らしい。 草も玩具も同じ、触ってみたい物。 気になる物。 キラキラして見えていたら嬉しい。 楽しい事で溢れているなら何よりだ。 ぷくぷくの頬に睫毛の影が落ちている。 隣でそれを見守る長男は、ずれた帽子を直しながら顎紐をしっかりと嵌め直す。 「うーあー」 「うん。 俺と一緒にしような」 母親は洗濯物を畳ながらビニールシートの上で土に触れる息子達を見ていた。 随分と歳が離れているが、そんな事を感じさせない位仲が良い。 特に下2人は長男が大好きで見ていて面白い。 長男もそれを嫌がらずにこやかに受け入れてくれ、安心する。 どんな時でも息子達の笑顔は素敵なものだ。 洗濯籠から小さな服を綺麗に畳み、先に置いたそれの上に重ねた。 「先ずは、トマトな。 それからピーマン植える。 綾登はこの石を入れてくれるか?」 小さな指で鉢底石掴み、じーっと見て、兄にも見せ、漸く鉢にぽいっと入れた。 小さな弟に手伝わせては時間がかかるが時間だけはたっぷりとある。 ゆっくりでも良い。 2人の兄は石を口に運ばない様に注意をしながらそれを見ていた。 後日、今は会う事が出来ない祖父母に見せようと三条はスマホでそれを収める。 折角の砂場セットも使っている所を見たいだろう。 送って、見方分かるかな… 不安だな 「あーぶっ」 「うん。 上手だな」 「じゃあ、次は土。 綾登はこっちの小さいプランターに入れて」 少しずつ、でも確実に。 土を溢しながらでも綾登が楽しそうにしている事が兄達と母は嬉しい。 自由が制限された今の現状が“普通”であって欲しくない。 外の世界には楽しい事が沢山あって、外でしか出来ない楽しい事が沢山沢山ある。 危険な所ではないと知って欲しい。 太陽のあたたかさや風の気持ち良さに、それらに負けない顔ではしゃぐ末っ子の声が小さな庭いっぱいに広がっている。

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