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第720話

綾登から借りた可愛らしいコロンとした形の如雨露から水をあげていると、本人はレジャーシートの上で寝転んだ。 あぶあぶとご機嫌な声が嬉しい。 太陽の光はあたたかくて気持ちが良いからそれも頷ける。 「植え終わったのか?」 和室で仕事をしていた父は窓から顔を出し、穏やかな口調で話し掛けてきた。 「ぶー」 「はは、土遊び楽しかったか。 優登も砂遊び好きだったよな。 懐かしいな」 思春期真っ盛りの次男はいつの話をしているんだと言う顔をしたが、歳が離れている分懐かしく思う気持ちはよく分かる。 舌足らずな声で“はぅ”と呼び服の裾を引っ張っていた弟。 自分の事を自分でするのが精一杯だった次男の時とは違い、今は両親の負担を少しは担える様になった。 勿論、自分の事を自分でしてからの話だが。 それに単純に弟は可愛い。 ぷくぷくしてて小さくて、守らなくてはと思うのは父性だろうか。 次男の時も、三男の時もそれは変わらない。 「綾登、手洗ってないのに口に入れようとしたら駄目だ。 ばっちぃんだぞ。 ほら、手洗いにいくぞ」 次男もどんどん頼もしくなり、三男に重なる面影が懐かしい。 自分もこうして守ってもらっていたのだと綾登を通して幼い頃の自分を見ているようだ。 溢れる程の愛情を注ぎ込まれたと次男だって感じている。 難しい年頃のだけで、それを知らない程子供ではない。 「綾登、優登と手洗ってまた日向ぼっこしたら良いよ。 綺麗に洗うんだよ。 それから水分も摂らなきゃ」 「うー」 綾登を抱き上げ室内に連れていく背中は随分と大きくなった。

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