722 / 1502
第722話
鏡を見ては少しずつ切ってを繰り返す。
文房具の鋏でも十分切れていく。
特に自分では見えない後頭部を切るのが大変だったが、その度に三条が“良い感じですよ”とか“もう少し切った方が揃います”とかサポートしてくれるので大分さっぱりしたと思う。
国家資格を受けた専門の技術者には叶わないが今はこれで良い。
生徒や職員、大切な恋人を守る事になるならな。
「うし、こんなもんか」
自分で散髪した髪は所々短くなっているが、セットをすれば気にならない程度だ。
襟足もサイドもすっきりした。
髪を掻き乱し髪に埋もれた切ったそれを払う。
「どうだ。
全体的に短けぇか?」
『それ位の長さも格好良いです』
「マジか」
三条はすぐに褒めてくれる。
貶す言葉は聴いた事がないが、顔を見ればそれが本音だと分かるから良いか。
ふわふわ笑う姿は高校在学中となんにも変わってはいない。
穏やかでおおらかで、笑うと少し幼く見える。
三条の笑い方だ。
鏡を見て切り残しを見付けては切っていく。
セットをすれば大丈夫、が長岡を大胆にした。
「終わり。
ありがとな。
助かったよ」
『お役に立てたなら良かったです。
それにしても、正宗さんって器用ですよね』
「そうか?
普通だろ」
『料理もそつなくこなしますし苦手な事ってないんですか?』
「三者面談」
当たり前だろ。
他に何があんだ。
『三者面談は……そうですね…』
「特に遥登の時はやばかった」
特に三条の時は緊張して腹が痛かった位だ。
あれは出来ればしたくない。
覚えのある三条も困った様な顔をした。
ともだちにシェアしよう!