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第760話
フライパンから直に食おうと思ったが、三条の手前悩む。
気心知れた恋人とは言え流石にズボラ過ぎる気がする。
親しい間柄でも、礼儀は忘れてはいけない。
それは三条にも失礼だ。
『本当に目玉焼きはのせないんですか?』
目玉焼きを焼く事を名目にフライパンから皿に移せば必然的に皿から食べる事になる。
なら、そちらの方が良いだろう。
「羨ましがるなよ」
にっと口角を上げ目玉焼きを焼く準備を整えていく。
焼きそばを皿に移し、フライパンをさっと洗う。
テフロン加工が施されているのでそのままたまごをぽんと落とした。
通話画面にはにこにこといつもと同じ顔をしている三条。
ほんの少し、ほんの少しだけ、いつもの風景が見えた気がした。
蓋をすると黄身も白っぽくなってしまうので、それはしない。
ジジ…と縁に焼き色が付く少し前。
それを焼きそばの上へと滑らせた。
『美味しそう…』
「言っただろ…」
『いやしいみたいですけど、だって…味を知ってますから…』
早く一緒に食える様になりたいな。
どちらもその言葉を飲み込んだ。
沢山の人がその為に毎日仕事をしている。
我慢している。
大人も子供も関係なく、恐怖の中にいる。
そんな中、自分達の事だけを考え口にするのは幼い。
それに、生徒達をこれ以上不安にさせたくない。
楽しい事を我慢してくれているのだから、せめて足並みを揃えなくては。
過ぎる青春は金を払っても取り返せない。
せめて教師としてしてやれる事はしたい。
そう思える様になったのだから、それを大切にすると決めた。
「ま、俺は遥登の作ってくれる飯は食えねぇけどな。
煮魚食いてぇ」
ふふっと笑みを溢しながら、おんなじですねと花を咲かせる恋人と過ごす時間はとても穏やかだ。
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