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第761話
ソースの香ばしいにおいは画面から伝わって来ない。
今はそれで良かった。
だって…
『ははっ、すげぇ腹鳴ってんな。
今日も元気で安心だよ』
腹の虫がやばい程鳴っているから。
「いやしくてすみません…」
『いやしくなんかねぇよ。
餌付け大成功じゃねぇか』
眉を下げながら麦茶を飲んで腹を落ち着けようとするが、舌が長岡の作る焼きそばの味を覚えていて頭を刺激する。
美味いよな。
美味しいよな。
そんなの俺が1番よく知っている。
中華麺のもちっとした食感と野菜の甘味のを包む香ばしいソースのにおい。
くたっとした野菜もさることながら、もやしがちょっとしゃきしゃきしてるのがすっごい美味しい。
目玉焼きは半熟とろとろで箸をぶつけただけでとろぉっと黄色を溢れさせる。
それを絡めた麺はまた1段と美味くて困る。
何が困るって、1人暮らしの長岡の食費が大変な事になってしまう。
「においまで届くようになったら拷問ですね」
『そうだな。
良い事ばっかではねぇな』
一緒に笑うともっと楽しい。
忘れてはいけない大切な事。
『あ、でも』
「?」
『遥登のにおいが伝わってきたら嬉しいな』
焼きそばを噛み締めながら嬉しそうな顔をする恋人に同じものを返すと胸をあたたかいなにかが満たしてくれた。
俺は、この気持ちと目の前で焼きそばを食べる人を守りたい。
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