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第763話

「誕生日に乾杯すっか?」 『誕生日過ぎてますよ。 でも、ありがとうございます』 「君の瞳に乾杯とか言って欲しいのかよ」 『また真顔でそういう事を言う…』 ソファから降り床にケツを着いて、今度こそ乾杯だ。 一緒に酒が飲める様になるまで隣に居られた奇跡は、あの日─三条を無理矢理犯した日の自分に言っても信じられないだろうな。 自分でも思う。 これは紛れもなく現実だが、奇跡の様な儚い夢だ。 カシュッと小気味良い音と共にプルタブを起こしカメラに掲げた。 「乾杯」 『乾杯です』 掲げるだけの乾杯を済ませ、黄金色を喉に流し込む。 三条も長岡の喉仏が動いたのを確認してからカップを傾けた。 三条が飲んでいる梅酒は母親が去年漬けた物らしく綺麗な琥珀色をいていて美味そうだ。 割り材の炭酸がシュワシュワと爽やかで三条が好きそう。 バレンタインのチョコレートも梅酒のボンボンが気に入ってたから確実だろう。 高校生や大学生なんて年を誤魔化して飲みそうなものだが真面目な三条はきちんと誕生日を待ったんだろうなと思いながらそれを嚥下する。 ぺろっと唇に触れたアルコールを舐める仕草が色っぽい。 『美味しい』 「ん、遥登と飲むといつもより美味いな」 『大袈裟ですよ』 大袈裟ではなく本当に美味い。 恋人と、そして教え子との飲酒は不思議な気持ちにさせてくれる。 「俺だけか?」 『…俺もです』 「だろ」 三条と出会って5年。 長くてあっという間の楽しい日々。 また1つ三条とはじめてを経験出来た。 それが、すごく嬉しい。 「あー、まさか教え子と一緒に酒を飲む日がくるとはな。 乾杯もしちまった」 『教え子、だけですか?』 「恋人もな」 嬉しそうに頬を緩ませ可愛い顔をする。 まだ幼さを残した顔をしているが成人だ。 自分の行いは自分の責任、自分の足でしっかりと立たなければいけない。 そんな瞬間を隣で見ていられるのが嬉しい。 恋人としても教え子としても。 感慨深いと一言で片付けしまうのは難しい程の気持ちだ。

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