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第769話
「綾登、みーつけた」
にこにこといつもの様に笑う兄に、ベソベソとした顔をした弟は手を伸ばした。
すぐに母親の腕から抱き上げるとぎゅぅっとしがみ付く。
末っ子からはほんのり消毒薬のにおいがした。
「どうした?」
眉を下げる母親から大きな鞄も受取り駐車場へと歩く。
いつも元気な大怪獣は首に抱き付き大人しく、なんだか変な感じだ。
「注射自体は大丈夫だったんだけど、お医者さん見て泣いちゃって…。
隠れた筈なのにおじさんに見付かったら驚くよね…」
「あぁ…。
綾登、早く見付けれなくてごめんな。
隠れるの上手で見付けられなかったんだよ」
「まぅ…」
「今度は家までドライブな。
それで、帰ったら遊ぼうか」
ひし…っと抱き付く健気な姿に、やっぱり罪悪感がある。
でも、予防注射は大切なんだ。
痛い思いも辛い思いもして欲しくない。
病気で苦しむ姿は想像でも嫌だ。
勝手でごめんな。
「うーぅ…」
「うん?
どうした」
「んま…」
「車に乗ったらボーロ食べようね。
今日はかぼちゃのボーロだよ」
「ん…」
指を口に運び、なんとか自分自身を宥めようとしているが、いつもの元気な綾登とはかけ離れている。
母と兄はひこうき雲を見付け教えるが反応が薄い。
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