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第770話

ボーロを食べ少しずつ機嫌の戻ってきた弟と母親を乗せての遠回りしながら帰路につく。 綾登を乗せての運転は久方振りで少し緊張する。 大きく揺れたりして酔ってしまわないか心配だ。 「うーう」 「うん?」 舌足らずな声が名前を呼んだ。 振り向きたいが、いくら車の通りが疎らでも前方から視線を逸らすのは危険。 ベビーシートは運転席の真後ろ。 言葉だけで返事をすると、どーと聞こえてきた。 「うん。 お母さんが渡すね。 遥登、綾登がボーロどうぞって」 「ありがとう。 嬉しいな」 赤信号で停まるまで待って貰い、ぽいっと口に入れる。 ほんのりかぼちゃの味がして美味しい。 それに、弟が分けてくれたのが嬉しい。 美味しさが倍増だ。 「美味しいな」 「な」 「お、元気になってきたな。 安心したよ」 隣に座る母親に甘えて落ち着いたのもあるのだろう。 バックミラー越しにその姿を見ると運転手を買ってでて良かったと思う。 機嫌が良いに越したことはないのもあるが、やっぱり綾登は元気な方が良い。 ずっとよく似合う。 「消防署に着きました」 「綾登、消防車だよ。 救急車もあるね」 「あー」 「うん。 格好良いね」 「電車も見て帰ろうか。 そろそろそ駅に次の電車来る頃だろ」 黒猫の友達にそれを見せながらあたたかな日の光を浴びる弟はどんどん元気を取り戻していく。 そんなゆったりした時間がすごく大切だと思った。

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