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第772話

宣言が出ていた時はなるべく外出を控えていたが、解除され書店で数冊の本を購入した。 出掛けられない間に色々とチェックをしていた本を…と思ったが実際に本棚に並ぶそれらを見ていると我慢出来ず思ったより買ってしまった。 書店のにおいにわくわくし、本を手に取り、ページを捲り、新刊の素晴らしさを再確認しつい財布の紐が緩んだ。 誰かに似てきた気もするが。 読み終わったら長岡にも…なんて暫くは出来そうもない事を考えてしまう。 ベッドの上に寝転がり文庫本を読んでいると、傍らに置いたスマホが震えた。 『起きてるか?』 『起きてたら 外、見てくれ』 続けざまに届いたメッセージに読んでいた本をベッドに置いたまま部屋を出る。 見てくれと言われたが窓からとは言われていない。 台所横の裏口から家を出た。 リビングの前の庭を通り、 表へと出る。 スマホを確認しようとした瞬間、視界の端で影が動いた。 「っ!」 「はる…」 そこに居たのは驚いた顔をした恋人。 会いたくてたまらなかった長岡だ。 小走りで近付くとマスク越しでも分かる程、やわらかな表情をしてくれた。 頭を下げると手のひらの中で会話する。 『返事が来ないと思ったら。 なに出てきてんだよ、不良少年』 『窓から見ろとは言われてませんから、来ちゃいました』 『次からは窓から見ろって添えとく』 自分より大きな恋人。 綺麗な恋人。 大好きな人。 この距離で見られるのは久しぶりだ。 やっぱり生の恋人に会うと全身が好きだと叫ぶ。 『それにしても、どうしたんですか』 『解除されたから顔を見に来た。 元気そうで安心したよ』 たったそれだけで、この距離を来てくれたのか。 いや、違う。 “たったそれだけ”ではない。 とても大きな違いだ。 大きく揺れる尻尾を隠す事なくふにゃふにゃ笑う三条を見て長岡も嬉しそうな顔をしている。

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