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第773話
マスクは絶対に外さないと約束をして、ほんの僅かな時間の逢い引き。
それでもとても贅沢な時間だ。
2ヶ月以上ぶりの生の恋人は変わらず格好良い。
夜は平等を与えてくれる。
それを2人で分け合い道路を意味もなく歩く。
デートが出来るなら意味なんて必要ない。
「元気そうで安心した」
「正宗さんも元気そうで良かったです。
学校はどうですか」
「1クラスを2つに分けて授業するから、ずっと同じとこしてるみてえで頭バグりそう。
でも、生徒の声のする校舎は良いな」
長期休業中だって部活動で生徒が登校し声が聞こえていたが、この1ヶ月は道路を歩く子供の声さえ聞こえなかった。
そんな校舎ははじめてで異常だと長岡は言う。
本人は古典から離れられず教師を選んだと言うが、それだけの人がそんな事を言うだろうか。
A組に向けられていた視線の優しさを三条は知っている。
あの目は本物だった。
やっぱり長岡は高くて大きな目標だ。
「弟も漸く学校に行けて、久し振りに制服を着れて嬉しそうです。
1ヶ月以上大人しく家に居たんですから 沢山楽しい事して欲しいです」
一言一句聴き逃したくないというように聴いてくれる長岡に、頬の筋肉はだらしなくなっていく。
だって、久しぶりに直接声を聴けている。
鼓膜を震わせるのはよく似た声ではなく、長岡のものだ。
そんなの嬉しくない人がいるのか。
表情筋とはなんだろなって言われたって構わない。
とにかく嬉しい。
嬉しいんだ。
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