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第774話

こつん、とスニーカーの爪先にぶつかった小石が転がっていく。 あまりに静かでコロコロと音が聞こえてくるくらいだ。 「俺達みたいに家から出る大人の代わりに楽しい事奪って我慢させちまったな。 でも、そのお陰で少しずつ良くなってんだ。 感謝しかねぇよ」 「弟が聞いたら喜びます。 弟だって色々と考えて噛み砕いてて。 我慢してるのを誰かが知っていてくれるって分かっているとは思うんですけど、難しい年頃ですから。 だから、家族以外の大人にそう言われたら嬉しいと思います」 「そういや反抗期だったな。 正しい成長過程じゃねぇか。 それにしても、遥登に似て良い子なんだな」 優しい人が傷付くのは嫌だ。 長岡も、弟も、両親も、友人達も。 頑張りを侮辱されれば俺が怒る。 優しい人ばかりが傷付くなんて糞食らえ。 俺の大切な人を、くだらない理由で傷付けないで欲しい。 なんだか恋人の悪い面まで似てきた様だが、これに関しては本当にそう思う。 「名前の通り優しいですよ。 反抗期なのに反抗しきれてない所とか可愛いです」 「兄ちゃんの顔して」 堪えきれず溢れた恋人の笑い声が耳に心地良い。 生きていると実感する。 大袈裟かもしれないけど、長岡の隣は息が出来る。 まったく不思議な話だ。 だって長岡と出会ったのは5年前で、それまでは“普通”に生きてきた。 それなのに今は隣にいてくれないと息すら出来ない。 「年が離れてる分、可愛いんですよね」 「分かる。 俺も、遥登が可愛くてたまんねぇ」 だから、もう少しだけ恋人に甘えていたい。 ほんの少し、歩くスピードを落とした。

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