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第775話
意味もなく歩いていたが、なんとなく神社に来てしまった。
というよりも、この辺りは神社しか知らない。
土地勘がまったくない長岡が理解して来られるのは、三条の自宅と駅、この神社の3ヶ所だ。
「夜の神社ってより厳かですね。
2年参りとかじゃなくても、どっしりしてます」
無信仰者な長岡でも、そう思うのは日本で生まれ育ったからなのだろうか。
きっとキリスト教が主の国に生まれ育っていたらそうは思わなかった気がする。
いや、日本文化が好きなら別か。
山茶花の葉が風に揺れ、どっしりとした空気の中を恋人同士で歩く。
奉られている神が見たら怒りそうだが、生憎無信仰だ。
見せびらかすつもらでポツンと置かれたベンチに並んで腰掛け足を伸ばした。
「ここら辺、神社しか分からねぇからここ来ちまった」
「特別何かがある訳でもないですよ。
普通の町です
あ、でもすぐそこの喫茶店、生搾りのジュースが美味しいんです」
「へぇ?
生搾りか。
今時、珍しいな」
「昔ながらの喫茶店なんです。
ナポリタンとか太麺でもちもちしててケチャップ味ですよ。
美味しいんです」
こんな時間に美味そうな話をされ腹が鳴りそうだ。
にこにこと飯テロする三条はそれから駅の近くの甘味屋のお菓子が美味いと続ける。
なんでも、季節になるとクリーム大福に苺をのせてくれるらしい。
勿論、苺の分の追加料金は取られるがそれでももちもちの求肥とクリームやあんこ、苺の組み合わせは抜群に合うので毎回大福の味に悩むらしい。
注文してから大福に切れ目を入れ苺をのせるといっても、クリームがダレてしまうので早めに食べなければならないのが難点らしい。
確かに、手土産にするには些か繊細だ。
だが、地元民に愛されるには充分だ。
「さっきから食い物の話ばっかりしてますね…」
「良いじゃねぇか。
ラーメンも有名だろ。
それ位しか知らなかったから他の食い物の事も知れて面白れぇよ」
そうだ。
遥登らしくて肩から力が抜ける。
こんな時間をずっと願っていた。
3月の頭からリスクを考え会わない事を決め早2ヶ月以上。
ずっと上手く息が出来ず、身体に力が入っていた。
それが、9歳年下の─今は8歳年下の恋人に会えただけですべてが正常に機能している。
血液は酸素を喜び、目はずっと隣を見、口元は緩む。
心臓はさっきから愛おしい愛おしいと嬉しそうに動いていた。
全身で三条に会えた喜びに浸りしあわせを噛み締める。
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