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第785話

土手を一周ぐるりと夜の散歩。 「静かで良いな」 「灯りも少ないですけど」 「だから、こうやって手ぇ繋げんだろ」 絡めた小指を軽く振られ、ふわふわ笑う。 土手、舗装されていない土の道の上には灯りも疎ら。 景観の為に植えられた低木と野花、伸び放題の雑草が生えているだけ。 そもそも、こんな時間に外を歩く人は殆どいない。 夜に出歩く事など想定されていないのだろう。 だが、2人には好都合。 向こう側の外灯がキラキラと水面を輝やかさせるのを横目にゆっくりと歩きながらデートが出来る。 「いつも、来てくれてありがとうございます。 疲れませんか?」 「いや、全然疲れたねぇよ。 遥登だって来てくれてただろ。 寧ろ遥登に会えて元気になる。 それに、遥登はこんな気持ちでバスに乗ってたのか…とか考えながら来んの楽しいよ」 ふわふわ笑う三条につられ、長岡は優しく顔を綻ばせた。 会えるようになったと言っても部屋ではない。 そこに来るまでが心配で、車を持っている長岡が此方に通うようになった。 感染状況をみつつ1週間に1回。 急激に増えたらまた会えないがそれでも会えるようになった事がどちらも嬉しい。 道中、早く会いたいなと考えたり、ふわふわ笑う顔を思い浮かべたり、とても不思議な気持ちになる。 きっと三条もそんな気持ちでバスに揺られているのだろう。 そうだと良いなという願望ではなく、きっとそうだという自信がある。 だから、玄関を開けた瞬間の三条はとても嬉しそうな顔をするんだ。 「そう言って貰えると嬉しいです」 はにかむ恋人に肩をぶつけ笑い合う。 ずっとしたかったのは、こうして満開の花を咲かせる恋人の隣で同じ顔をすること。 漸く出来る様になってきた。

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