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第786話
「家帰ったら、手洗いうがいしっかりしろよ」
「正宗さんもです」
「遥登がそうするから俺まで癖になっちまったんだ。
安心しろ」
笑い合う2人の間を突然風が走った。
土手に咲くマーガレットが大きく揺れ、髪が乱れ、隣でくりくりした目が此方を見た。
「びっくりした…」
「すげぇ風だったな。
髪ぐちゃぐちゃじゃねぇか」
手を伸ばしてそっと髪をどかした。
肌に触れない様に小指でそっと上部を掬うだけ。
ほんの少しだけもどかしいと思ってしまう。
だけど、今は大切な事だ。
「ありがとうございます」
「ん、どういたしまして」
少し見ない間に、また格好良くなったみたいだ。
男子三日会わざれば刮目してみよ、なんてよく言ったもんだな
遥登の事だから心変わりの心配はないけど、勉強して見た目も大人びてすげぇ良い男になってんだよな
あぁ、その変化をもっと近くで見たかった。
悔しいな。
「また格好良くなったな」
「え…、いきなりどうしたんですか。
それは正宗さんでしょう」
変わらずふわふわ笑う三条に、何かが込み上げてくる。
これが、“愛しい”や“しあわせ”なんだろう。
まるで、遥登だ。
この気持ちに名前をつけるとしたら、それが良い。
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