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第790話

「買い食い出来ねぇのはつまんねぇな」 マスクをずらし洗っていない手で飲食するには少し抵抗がある。 “なに”はしてはいけないのか判断基準がまだあやふやたからだ。 それが判れば今より少し気持ちも楽になるはず。 「アイスは食いながら帰るのが醍醐味なところもあるよな」 「分かる。 けど、なんかあると嫌だしなぁ」 兄の手にはデザートの甘味とお菓子の入った袋が揺れていた。 新発売のアイスにチョコレート菓子、しょっぱいスナック菓子。 綾登が食べられる様に冷凍の果物も買った。 小さく切ってヨーグルトにのせて一緒に食べるつもりだ。 明日のおやつも楽しみになった。 「レアチーズケーキ食いたいな」 「作る作る」 「ゼリーも美味い」 「任せとけ」 ビニールが脚にぶつかりカサカサと音をたて、早く帰らないとアイスが溶けるぞと催促してくるがもう少しゆっくりと帰りたい。 折角弟が誘ってくれた散歩だ。 勿体ないだろ。 「あとはー、ほうれん草の蒸しパン」 「それはまだだって。 ほうれん草がもう少し大きくなったら」 「あ、みたらし団子美味そう」 「ん? うわ、本当だ」 甘味屋の窓に貼られたみたらし団子の文字にそう言えば弟も立ち止まった。 店の奥に並んだ団子が見える。 もっちもちの団子に甘じょっぱい醤油味のタレがとろっと絡んでいて、蛍光灯の光を浴びて艶々と輝いている。 なんて魅惑的だ。 「…」 「…」 とんっと肩をぶつけられ頷く。 「いらっしゃいませ」 誘惑には勝てなかった。

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