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第791話
三条に2ヶ月ぶりに会えて元気が出た。
そのお陰か仕事のスイッチもばちっと入る。
「活用の確認をしていきす。
しつこいですが、確認は毎回します。
確認する癖を付けてください」
自分がこんなに単純だったなんて笑える話だが、それだけあの子の力は凄いんだ。
青い空のように澄み渡っていて、雄大で、あたたかい。
穏やかな笑顔で背中を叩いてくれる。
教科書を持ち真っ直ぐに立つ長岡の髪を風が揺らした。
換気の為に開けられた窓から微かに緑のにおいのする風が入ってくる。
あの学校とは違うにおいだ。
「まず、上一段活用は蹴るだけです。
それから、下一段活用は干る、射る、着る、似る、煮る、見る、居る、率るの8つです。
これは覚えてください。
覚え方は、ひいきにみゐる。
音で覚えると忘れにくいですから暫くは繰り返し言っていきます」
プリントだけでは理解に限界がある。
分からないと思った箇所を自ら調べる生徒も多くはない。
それに、受け渡された知識は教科書にも参考書にも書かれてはいない。
だからこそ、対面であれリモートであれ授業は必要だと思う。
マスクをした顔ばかりの教室内にきちんと聞こえるよう、声量を上げた。
「次に、四段活用、上二段活用、下二段活用の見分け方ですが、まず単語の後ろに“ず”を付けて未然形にしてから考えます。
“ず”を付けた時、ここがaなら四段になります。
iなら上二段、eなら下二段です」
生徒のいる校舎はやっぱり良いものだ。
明るくて、五月蝿くて。
騒がしい位がちょうど良い。
人気のない学校なんて気持ち悪いだけだ。
背筋をすっと伸ばして黒板に向かい、チョークの粉で袖を汚す。
白や赤で汚れるスーツが良いんだ。
授業をしていると視覚からも頭が理解する。
これが学校だ。
「じゃあ、少し時間をとるので今配ったプリントの活用表を埋めてください。
10分になったら解答していきますよ」
たくさん我慢してくれた生徒達の当たり前の日常に少しでも近付けたくて、今度は大人が頑張る番。
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