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第792話

「ただいま」 父親の声に綾登は兄の影に隠れた。 にこにことそれを見守る長男と次男。 母親も台所からその様子を見ていた。 父はそのまま部屋を通り過ぎ洗面所へ向い手洗いうがいを済ます。 そして、着替える事なくリビングへ入ってきた。 「美月ちゃん、ただいま。 あれ、綾登がいないなぁ。 どこだ」 最近の綾登は、父とこうやって遊ぶのが楽しいらしい。 「ここにもいないなぁ」 優登がこっそりブランケットをかけて隠すときゃぁっと可愛らしい声が漏れる。 「綾登、しーだぞ」 頬を膨らませ喜ぶ弟。 口元にしーと指を立てると、あ!と声を出してしまう。 余程楽しいのだろう。 もう1人の兄もしーっと指を立てた。 「ここかなぁ」 台所を覗き、食卓の下を覗き、少しずつこちらにやって来る。 「あれ、いないなぁ」 何処に言ったんだろうと近くに座った。 「だあ!」 可愛い声と共に表れた末息子に父はにっこりと笑顔を向ける。 笑った時に出来る皺がまた深くなったみたいだ。 それは、老けたなと思うより似合うなと思うもの。 「此処にいたのか。 綾登は本当に上手に隠れるな」 「うへへっ」 背中にしがみ付きながら喜ぶ弟の頭を大きな手が撫でた。 末弟に重なる幼い自分。 自分も、次男もこうして大きくなってきたんだとむず痒くなる。 だけど、そうして貰うのが好きだったのもよく覚えている。 「もうすぐご飯が出来るよ」 「じゃあ、着替えてくるか。 綾登は手洗おうな」 「んま」 「綾登、行くぞ」 「ぶっぶっ!」 長男の脚に絡み付きながら楽しそうに笑う小さな頭を撫でた。

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