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第794話
ソファの上で胡座をかき梅酒ソーダを飲む長岡は、目の前のカメラに学校では決して見る事の出来ない笑顔を向けていた。
表情のすべてがやわらかくなり、誰が見ても相手は好い人だと分かる。
それもそうだ。
相手は溺愛している三条で、此処は長岡自身の部屋。
誰見られる訳でもなく完璧なオフなのだから。
『って事があったんです』
「そりゃ可愛いな。
つぅか、もうそんな成長したのか。
早ぇ」
何気ない1日の話を聴きながら終わる1日が好きだ。
中々会えなくなってしまったが、ビデオ通話で顔を見ながら話す機会は格段に増えた。
土日は繋いだまま本を読んだりゲームをしたりし、平日もこうして顔を見て元気を分けてもらっている。
気軽に会えないという足枷がこんなにも行動的にしてくれたのかと思うと、なんだか複雑だがな。
それでも、この笑顔が見られるのだから好きなんだ。
『かくれんぼがブームなんですよ。
お尻丸見えで隠れたりしてて見てる方も楽しいです』
「毎日楽しそうで良かったよ。
今の内に沢山遊んどけ。
会える様になったら俺が遥登を1人占めすんだから」
恋人をうんと幼くして考えればほぼ同じ光景が見られる筈だ。
想像してみればとても愛らしい。
それも、お尻を丸見えにさせて隠れているのなら可愛らしい以外に言葉は見付からない。
見付かったら見付かったらで頬をふにゃふにゃさせながら楽しそうに笑い、とびきりの笑顔が咲き乱れる。
なんてしあわせな光景だろう。
「遥登のご両親って、遥登見てるとこういう人なんだろうなって予想つくけど、本当にそういう方だよな」
『?』
「素敵なご両親だな」
こんなおおらかな子をしっかりと育て上げた愛情はとても深い。
それこそ、僅かに残る良心がキリキリと痛む程に。
真っ直ぐな芯があり、だけど折れないしなやかさを持ち合わせている。
清く正しく、そして優しい。
同性から見てもとても良い男だ。
自慢の恋人。
『親を褒められるのってなんか気恥ずかしいですね。
でも、ありがとうございます』
はにかむ顔もまた可愛らしい。
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