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第806話
口いっぱいに蒸しパンを頬張る三男はご満悦。
そりゃあ種を植えてからずっと今日を楽しみにしていたのだから当然だ。
「んーふふ」
「でっけぇ口。
ほっぺも美味しそうだな」
こっくんっと上下する頭と顔を見て、思春期真っ盛りは大人用に作られたカップケーキを齧った。
照れ隠しだと分かるそれが兄にはとても可愛いく見える。
反抗期だの思春期だの青春っぽい。
そんな今をしっかり楽しみ、後からダサかったと後悔したり楽しかったと思い出にするのは大切だと思う。
「はう」
「うん?」
「どー」
「分けてくれるのか?」
差し出された蒸しパンを少し分けて貰った。
大人の物より甘くなくて、優登が小さな頃に母親が作っているのを分けて貰った時の味がする。
正確には味は殆んど覚えていない。
美味しかった気はするのだがどんな味かと聞かれると難しい。
だけど、同じレシピだから当たり前なのだが当時の事を思い出す味だ。
小さな頃からべったりくっ付いてきた次男が今度は作る番になった。
嬉しくて少し寂しくて感慨深い。
あの時のぷにぷにした弟にはもう2度と会えない。
だけど、頼もしくなっていく弟の成長は嬉しい。
やっぱり自分もブラコンの気があるみたいだ。
「ありがとう。
美味しいな」
「へへぇ」
「兄ちゃんはこっちも食えよ」
そう言って人参の擦りおろしが混ぜ困れたカップケーキも手渡された。
ほうれん草のペーストが足りなくて半分は人参味になったが、こちらも美味しい。
次男と三男に挟まれにこやかに過ごす休日は時間がゆっくりと過ぎていく。
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