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第808話
商店街を抜け、並木通り─ポツポツと植えられた街路樹のいくつかは管理不足から痛み、根本から切られていて並木と言うにはあまりにお粗末だが─をブラブラ歩く。
春になれば近隣の高齢者が植えたチューリップや何処かから飛んできた花の種が芽を息吹かせる。
長岡の暮らしている豊かな土地とは違い、彼方此方に緑がある土地だ。
そんな小さな町でも恋人と歩くだけでわくわくする。
長岡は凄い人だ。
24時間営業のレンタルビデオ店、真っ暗な図書館、郵便局の脇を通り立ち止まった。
目の前には陸橋。
「陸橋渡りますか?」
「小学生の時どうしてた」
「毎日渡ってました。
信号機もありますけど危ないですから」
「んじゃ、登るか」
まるで小学生の三条を見るようなデート。
小学生の自分に嫉妬しないのは、カーテンのひかれた窓と田舎の薄暗さのお陰で繋げている小指のお陰だ。
ほんの少し小指に力を入れればふっと笑われた気がする。
久し振りに登る階段は随分と低くて幅も狭い。
2段飛ばしをするには滑って落ちそうで大人には利用しにくい階段だ。
「なんか、揺れますね」
「つぅか、細くねぇか」
「小学生には普通の幅だったんですけど、8年ぶりに登るとこうも違和感なんですね…。
しかも酔いそう」
中学校は信号機を渡って通っていた。
決められた通学路がなかったからだ。
とは言え小学生から更に奥へ歩かなければならないので、信号機の待ち時間分余裕を持って登校しなくてはならないので待ち時間のない陸橋は便利だったのかも知れない。
庭の家庭菜園。
美容室の隣の原っぱ。
遠くに聞こえるバイクの走行音。
見える物も聞こえる物も温度も違うところに長岡と居る。
「小学校あれか?」
「あ、はい」
記憶を塗り替えるなんて事は出来ない。
それでも、記憶に色が付くようにほんの少し変化する。
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