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第809話

「ここが俺が通ってた小学校です」 久し振りにやって来た小学校は通っていた当時と少し違っていた。 毎年、アプローチ脇に並んでいたバケツ稲がない。 朝顔の鉢植えもだ。 理由は考えなくとも分かる。 授業で植える頃に休校だったから。 子供を守る為だとは頭で分かっていてもいざ目の当たりにすると寂しい気持ちも込み上げてくる。 それにしても、真っ暗な校舎は見慣れないせいかなんだか不気味だ。 ホラーゲームや小説で夜中の学校に忍び込むなんて展開がよくあるが、此処に入ろうという勇気は凄い。 それに、すぐに防犯システムが作動するだろう。 「へぇ」 校門に触れ、するりと撫でた。 まるで確認するかの様なの手付きをただ見詰めた。 長岡は何を吸収したのだろうか。 幼い頃の記憶が今と重なる様な不思議な気持ちになる。 「綺麗だ。 わりと新しい校舎なんだな。 どんな小学生だったんだ?」 「どんなって…普通ですよ。 可もなく不可もなく的な」 「遥登が普通なら大抵の奴は伸び代しかねぇな」 黄色い帽子を被りランドセルを背負って歩いた道を、今恋人と歩いてきた。 歩き慣れた道がより色鮮やかに見えるのは隣に恋人がいるから、なんて現金だ。 「買い被り過ぎですよ」 「可愛かったんだろうな。 弟も可愛かったしな。 なんとなく想像出来る」 「文化祭で会ってますもんね。 あの時は前売り券頂いてありがとうございました」 「それ、何回目だよ。 気にすんなって言ってんだろ。 それにしても、犬みてぇだったなぁ。 可愛かった」 でも、正宗さんって猫派なんじゃ…? じっと見詰めている三条に気が付いた長岡は更に言葉を続ける。 「まぁ、遥登の次な」 ……そういう意味で見てたんじゃないけど、まぁ良いか それはそれ、これはこれで嬉しい。 繋いだ小指を僅かに振り、嬉しい事をアピールした。 「そういうとこな。 すげぇ好き」

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